「いい商品なのに売れない」を防ぐ。水産加工品の商流・販路設計。

「いい商品なのに売れない」を防ぐ。水産加工品の商流・販路設計。記事のメイン画像

「良い商品を作ったのに売れない」—水産加工品や養殖水産物の現場でよく聞かれる悩みです。原因の多くは商談の話術ではなく、商品を作る前の「商流設計」の不足にあります。本記事では、水産庁・農林水産省の事例をもとに、バイヤーに選ばれる商品づくり・商流設計の考え方を解説します。

1.商品を作ってから、売り先を探していないか 

養殖魚や地域の水産物を活用し、加工設備を導入して新商品を開発する。ところが、いざ販売を始めると、想定した価格では売れない、発注量が少ない、取引条件が合わない。結果として、商品だけでなく設備まで十分に活用されないことがあります。 
水産庁も、新しい加工施設を整備したものの、原料不足や人手不足によって稼働率が上がらない、新商品を作っても価格や市場ニーズが合わないといった課題を指摘しています。 
こうした事態を防ぐために必要なのは、完成した商品の魅力を商談で説明することだけではありません。商品を作る前から、誰に、何を、いくらで、どのように販売するかを考える「商流設計」が重要です。 

2.商流設計とは、売れる条件を先に組み立てること

商流設計では、想定顧客、販売チャネル、商品規格、価格、発注ロット、供給量、物流、品質管理までを一体的に検討します。
例えば、小売店では、消費者が手に取りやすい価格や容量、賞味期限、陳列のしやすさが重視されます。一方、飲食店では、下処理時間の短縮、歩留まり、必要な部位だけを仕入れられることなどが価値になります。
水産庁が紹介する事例でも、商談を通じて小売店や外食店のニーズを把握し、「必要な部位を必要な量だけ仕入れたい」という要望に対応した部位別加工が行われています。
つまり、商品の形は、生産者や加工事業者だけで決めるものではありません。販売先との対話を通じて、実際に取り扱われる条件へ近づけていく必要があります。

3.バイヤーは商品のどこを見ているのか

バイヤーが商談で確認するのは、味や見た目だけではありません。本記事では、商談時に整理しておきたい情報を、「価格・取引条件」「品質・安全性」「製造・供給体制」の3つに分けて考えます。
①価格・取引条件:卸価格や想定小売価格、最低発注数量、ケース入数、月間供給量、納期など、実際に取引を始められる条件を整理します。
②品質・安全性:賞味期限、保存温度、原材料、アレルゲン、検査結果など、商品を安全に取り扱うための情報が重要になります。
③製造・供給体制:どのような工程で製造されているかに加え、継続的に商品を供給できるか、欠品などが発生した場合にどのように対応するかといった点も、事前に整理しておく必要があります。

バイヤーが商談で確認する主な判断材料

農林水産省が提供する「FCP展示会・商談会シート」でも、商談時に整理する情報として、希望小売価格、卸値への対応、ケース入数、賞味期限・消費期限、保存温度帯、発注リードタイム、主原料産地、アレルギー表示、認証、製造工程、品質管理情報などが挙げられています。農林水産省は、このシートを商談会主催者やスーパー、コンビニ、百貨店、卸等のバイヤーの実際のビジネスニーズを踏まえて作成したとしています。

水産加工品に限定した調査ではありませんが、農林水産省が食品の展示会・商談会について実施した調査では、「FCP展示会・商談会シート」を見たバイヤーの95.3%が「わかりやすい」、90.1%が「必要な情報が整理できる」、91.6%が「共通フォーマットで便利」と回答しています。さらに、「FCP展示会・商談会シートを活用すると、他の展示会・商談会よりもお互いの興味・関心が広がると思うか」というバイヤーへの質問では、44.9%が「より関心を持てるようになる」、44.9%が「どちらかというと商談のきっかけになる」と回答しています。両者を合わせると89.8%です。

FCP展示会・商談会シートを閲覧した出展者・バイヤーが評価したポイント

つまり、商談で大切なのは商品の魅力を語ることだけではありません。「いくらで取引できるのか」「どのような品質管理をしているのか」「どのような条件で継続供給できるのか」まで、買い手が判断できる形で情報をそろえておくことが重要です。
水産加工品は、原料となる水産物の供給状況や保存条件なども商品設計に関わります。だからこそ、「おいしい」「地域ならでは」といった魅力に加えて、価格・品質・供給の条件をできるだけ具体的に示すことが、次の商談や具体的な取引条件の検討につながると考えられます。

4.商談は、一度で採用を決めてもらう場ではない

初回商談で、いきなり採用か不採用かを決めてもらうことは現実的ではありません。
バイヤーは、商品説明を受けた後、サンプルの試食、価格や供給条件の確認、社内担当者との協議、製造現場の確認、テスト販売などを経て、取引を判断します。


そのため、初回商談の目的は、その場で商品を買ってもらうことではなく、バイヤーが次の検討段階に進むための情報を渡すことです。
商談後には、サンプル、見積書、商品規格書、検査結果、製造工程、供給計画などを速やかに共有する必要があります。必要に応じて、バイヤーに生産・加工現場へ来てもらい、原料の確保方法や衛生管理、製造能力を実際に確認してもらうことも有効です。
商談とは一度きりのプレゼンではなく、相手の意思決定を支える連続したプロセスなのです。

5.成功の鍵は、販売先と一緒に商品を作ること 

水産庁の水産バリューチェーン事例では、地域で水揚げされる多品種少量の魚について、魚種ごとの市場ニーズを調査し、需要に合った加工品を開発しています。さらに、水揚げ情報や在庫情報を共有し、受発注を一元化することで、生産側と販売側の需給のずれを減らしています。
この事例が示すのは、成功のためには商品開発だけでなく、生産、加工、流通、販売をつなぐ仕組みが必要だということです。
誰に相談するかも重要です。量販店のバイヤー、飲食店、卸売事業者、商社など、販売先によって求める商品や条件は異なります。まず話を聞く相手を定め、その相手から得た情報を商品規格や生産計画へ反映することが、売れる商品づくりの出発点になります。

6.Omusubi TecHが目指す取り組み 

Omusubi TecHは、ICTやデータを活用し、生産者が安定した収益基盤を持てる一次産業の実現を目指しています。
水産加工品についても、商品を直接販売することだけが支援ではありません。誰に相談すべきか、バイヤーの判断にどのような情報が必要か、安全性や品質をどの指標で示すか、どのような試験販売を行うかを、現場と一緒に整理することが重要です。
これまで一次産業の現場で培ってきたデータ取得項目の設計や、実証方法の検討、関係者との連携経験を活用し、生産・加工・販売をつなぐ仕組みづくりに取り組みます。
「いい商品なのに売れない」を防ぐために必要なのは、商談当日の話術ではありません。商品を作る前から販売先と対話し、買い手が判断できる情報と条件を整えることです。売れるかどうかは、完成後ではなく、商品開発を始める段階から決まり始めています。

■出典一覧